ロイヤルオークを調べ始めると、まず「なぜステンレスなのにこんなに高いんだろう」という疑問にぶつかる人が多いと思います。
わたしも最初にここで一度止まりました。金無垢でもなく、複雑機構でもない。それなのに発売当時から異様に高かった。その理由を追っていくと、ロイヤルオークの歴史そのものが見えてきます。
『クロノヴィア』のトキオです。今回は、ロイヤルオークの誕生から現行世代にいたるまでの流れを、できるだけ自然な順番で振り返ってみます。
1972年──なぜ今でも語られるのか
ロイヤルオークが発表されたのは1972年4月15日、スイス・バーゼルで開催されたウォッチフェアでのことです。
このころ時計業界は「クォーツ危機」のど真ん中にいました。日本のクォーツ技術が世界市場に流れ込み、機械式時計の需要が急激に冷え込んでいた時代。そんな状況で、オーデマ ピゲはステンレススティール製の高級スポーツウォッチという前例のない挑戦に出ます。
デザインを手がけたのは、ジェラルド・ジェンタというフリーランスのデザイナー。依頼を受けてからわずか一晩でスケッチを仕上げたという逸話が残っています。八角形のベゼル、八本のビス、ブレスレットとケースが一体化したシルエット。どれも当時の高級時計にはなかった発想でした。
名前の由来はイギリス海軍の戦艦
「ロイヤルオーク」という名前は、イギリス海軍の戦艦に由来します。八角形の舷窓を持つことで知られたその艦の姿が、ベゼルの形と重なったといわれています。
その戦艦は第二次世界大戦中に撃沈され、800人以上の命が失われました。深い歴史を背負った名前でもあります。イギリス海軍はこれまで複数の艦をロイヤルオーク号と命名してきましたが、時計のデザインのモチーフになったのは六代目の艦とされています。
名前の由来を知ってから改めてベゼルを見ると、八つのビスがどこかアンカーのような印象に見えてくるから不思議です。
発売当初、市場は受け入れなかった
初代モデル、Ref.5402の定価は3,300スイスフラン。当時の価値観でいえば、ロレックスのサブマリーナが20万円弱で買えた時代に、ステンレス製の時計がその数倍の価格をつけていたことになります。
最初は売れなかったと言われています。「ステンレスでこの値段はおかしい」という反応が正直なところで、ディーラーの多くが困惑したそうです。それでもオーデマ ピゲは価格を下げませんでした。ステンレスの手仕上げに費やす工数が、金無垢モデルと変わらなかったからです。
時計の価値は素材だけではない、という主張を製品として出した。その姿勢が、後になって評価を変えていきます。
世代ごとに何が変わってきたか
1970年代から2020年代にかけて、ロイヤルオークのベースラインはRef.5402から始まり、14790、15300、15400、そして現行の15500系へと続いています。外観の変化は細かく、パッと見ただけでは分かりにくいのですが、ケース径やムーブメント、文字盤の仕上げ方が少しずつ更新されてきました。
大きな転換点のひとつは、Ref.14790の時代に追加されたサイズ展開です。それまで39mmだったケースに、34mmや25mmのモデルが加わり、女性ユーザーへも裾野が広がっていきます。1984年にはパーペチュアルカレンダーを搭載したモデルも登場し、コンプリケーション展開も本格化しました。
1990年代は特にバリエーションが増えた時代で、この10年間だけで約200種類ものモデルが作られたとも言われています。良い意味での迷走期ともいえますが、それだけロイヤルオークが「展開できる器」として認められていた証拠でもあります。
50周年を経て、現行モデルへ
2022年はロイヤルオーク誕生50周年の節目で、オーデマ ピゲはアニバーサリーモデル(Ref.15510ST)を発表しました。50年前のデザインコードを守りながら、ムーブメントや文字盤の仕上げに手を入れた形です。
現行の主力モデルは41mmケースの15500系ですが、2026年時点ではすでに生産終了モデルになっているリファレンスもあります。中古市場でのプレミアはモデルによって異なり、世代や状態で価格差が大きく出るため、中古で探す場合はリファレンス番号と製造年代の確認が必要です。
ここは正直、調べるほどに複雑になるところで、わたしもリファレンスの並びを一度表で整理しないと頭の中がこんがらがりました。
ロイヤルオークが今も選ばれる理由
半世紀を超えてもロイヤルオークが語られ続けるのは、デザインが変わらないからではなく、「変えてきた量が少ないのに、時代と合い続けている」からだと思います。
ジェラルド・ジェンタが一晩で描いたスケッチが、今でも世界中の手首の上にある。それだけ余裕のある輪郭だったということでしょう。素材や仕様の詳細は世代ごとに追うと深くなりますが、まず大きな流れを押さえると、個別モデルを見るときの基準が決まりやすくなります。
気になるモデルが絞れてきたら、リファレンス番号で検索して製造年代と仕上げの違いを確認してみてください。そこから先は、実物を見ながら判断するのがいちばん確かです。









